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浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

高校数学で $\bar{~~~}$(バー) という記号は次の5通りに使われています。

  1. 補集合
  2. 条件の否定
  3. 余事象
  4. 共役複素数
  5. 平均値
1,2,3は使われている領域が異なるだけで,構造的には同じ物です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

ただし一般の数学では,補集合は $A^c$,条件の否定は $\lnot\,p$ で表すことが多く,統一はされていません。高校数学がバーに統一しているのは,構造的に同じであることが分かりやすいという教育上の配慮だと思います。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

1,2,3に対して,4の共役複素数は構造的に別物ですが,似ている点もあります。それは $\bar{\bar{z}}=z$ のように,2重に施すと元に戻るという性質です。これは補集合,否定,余事象のほか,対称移動,逆数,逆関数にも見られます。このような性質のことを対合といいます。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

5の平均値は,1~4とはまるで違います。少しも似ている点がありません。偶然同じ記号になっただけで,ルーツが違うのではないかと思います。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

1987年の高校生クイズ選手権の予選で出された問題です。YesかNoで答えるのですが,どちらを答えるのが有利か数学的に考えてみます。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

例えば,3個の箱A,B,Cに5個の球をランダムに入れるとき,すべての箱に1個以上の球が入る確率を求めてみます。Aが空,Bが空,Cが空になる事象をそれぞれ $A$,$B$,$C$ とすると,求める確率は,$$\begin{align*}&P(\bar{A}\cap\bar{B}\cap\bar{C})\\=\;&P(\bar{A\cup B\cup C})\\=\;&1-P(A\cup B\cup C)\\=\;&1-\{P(A)+P(B)+P(C)\\&\quad-P(A\cap B)-P(B\cap C)-P(C\cap A)\\&\quad+P(A\cap B\cap C)\}\\=\;&1-3\cdot\(\[2/3])^{\!\!5}+3\cdot\(\[1/3])^{\!\!5}\\=\;&\[50/81]\\=\;&0.617\cdots\end{align*}$$約62%です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

同様にして,4個の箱A,B,C,Dに10個の球をランダムに入れるとき,すべての箱に1個以上の球が入る確率は,$$\begin{align*}&P(\bar{A}\cap\bar{B}\cap\bar{C}\cap\bar{D})\\=\;&P(\bar{A\cup B\cup C\cup D})\\=\;&1-P(A\cup B\cup C\cup D)\\=\;&1-\{P(A)+P(B)+P(C)+P(D)\\&\quad-P(A\cap B)-P(A\cap C)-P(A\cap D)\\&\quad-P(B\cap C)-P(B\cap D)-P(C\cap D)\\&\quad+P(A\cap B\cap C)+P(A\cap B\cap D)\\&\quad+P(A\cap C\cap D)+P(B\cap C\cap D)\\&\quad-P(A\cap B\cap C\cap D)\}\\=\;&1-4\cdot\(\[3/4])^{\!\!10}+6\cdot\(\[2/4])^{\!\!10}-4\cdot\(\[1/4])^{\!\!10}\\=\;&\[102315/131072]\\=\;&0.7806\cdots\end{align*}$$約78%です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

これを一般化して,$n$ 個の箱に $r$ 個の球をランダムに入れるとき,すべての箱に1個以上の球が入る確率を求めると,$$\begin{align*}&\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^k\nCr{n}{k}\(1-\[k/n])^{\!r}\end{align*}$$となります。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

クイズの問題は $n=365$,$r=21999$ の場合なので,これを代入すると,$$\begin{align*}1&-\nCr{365}1\(\[364/365])^{\!21999}\\&+\nCr{365}2\(\[363/365])^{\!21999}\\&\cdots\\&+\nCr{365}{364}\(\[1/365])^{\!21999}\end{align*}$$各項を概数で表すと,$$\begin{align*}&1-2.24\times10^{-24}+2.13\times10^{-48}-\cdots\end{align*}$$これは極めて $1$ に近い値です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

つまり,21999人の誕生日で356日が埋まる確率はほとんど100%であり,このクイズはYesと答える方が断然有利となります。もちろん実際の答えもYesでした。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

ちなみに,この方法で誕生日で356日が埋まる確率を求めると,2286人で約49.94%,2287人で約50.04%となります。したがって,2286人以下ならばNoと答え,2287人以上ならばYesと答えるのが有利です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

方べきの定理の逆を使って4点が共円であることを証明する問題は,反転で考えると結果が当たり前に見える場合があります。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

例えば,次の図で4点O,A,E,Fは共円です。その円は,直線EFを円Oに関して反転させたものになっています。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

次の図で4点O,D,E,Fは共円です。その円は,やはり直線EFを円Oに関して反転させたものになっています。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

どちらの図も点Aと点Dが対応し,点Eと点Fは反転円の周上にあるのでそれぞれ不動。そして,反転は中心を通らない直線を中心を通る円に移す性質があることを考えると,直線EFが反転によって目的の円に移ることが分かります。点Oは直線EFの無限遠点に対応していると考えるといいです。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

関数のオーバーロードと同じで,等価演算子も多重定義できるのは型で区別ができる場合に限ります。厳密にはそうなのですが,数学はちょっといい加減で,型では区別のつかない複数の $=$ を混ぜて使うことがあります。高校数学で言えば,偏角の $=$ と不定積分の $=$ です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

例えば $\arg zw=\arg z+\arg w$ と書いたとき,この $=$ は「$2\pi$ の整数倍の差を無視して等しいとみなす」という意味であり,通常の $=$ とは異なる定義で使われています。両辺の型は実数なので,どちらの定義が採られるのか区別ができません。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

式中に $\arg$ があれば分かるだろうということですが,それには欠点があります。

  • $\arg z=\pi$
  • $\arg w=3\pi$
  • $\arg z=\arg w$
上の3つが成り立つとき,$=$ の対称律と推移律にしたがって次も成り立つことになります。
  • $\pi=3\pi$
しかしこの式には $\arg$ がなく,両辺が偏角であることが分かりません。さすがにこの式は認め難いでしょう。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

このような状況に対応したのが整数の合同式で使われる $\equiv$ です。偏角の $=$ も $2\pi$ を法とする合同とみなして $\equiv$ で表せば上述のような問題は起きません。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

ただしこれは高校数学の話なので,そこまでの厳密さを追求するよりも簡単であることを重んじて $=$ のままやっていこうというのも十分理解できます。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

プログラミングだったら,$\equiv$ のような新しい等価演算子を導入するよりも,偏角型をつくって対処すると思います。$\pi=3\pi$ はこのままでは実数型で比較されて偽ですが,左右のどちらかを偏角型にキャストすれば真になるという仕組みです。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

$=$ が両辺の型に応じて意味を変えるのは,プログラミングで言えば演算子のオーバーロード(多重定義)にあたります。言語によりますが,新規に作ったクラスでもちゃんと定義さえ書けば $=$ が使えます。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

$A=B$ と書かれていても内部的には $\text{IsEqual}(A,B)$ のような真偽値を返す2変数関数に過ぎないので,関数のオーバーロードができる言語なら演算子のオーバーロードができてもそんなに特別なことではありません。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

$=$ も関数ということは,その定義はどんな内容にすることもできますが,わざわざ等価演算子で書くからには従うべきガイドラインはあります。数学も同様で $=$ をどんな定義にしてもいいわけではありません。例えば同値関係を満たすようにするのは必須といってもいいでしょう。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

$=$ が同値関係を満たすというのは,次の3つを満たすことです。

  • 反射律:$A=A$
  • 対称律:$A=B$ ならば $B=A$
  • 推移律:$A=B$ かつ $B=C$ ならば $A=C$
高校数学では集合の $=$ ,ベクトルの $=$ を定義しますが,これらをちゃんと満たしています。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

高校数学で使われる等号 $=$ は3種類あります。複素数用,集合用,ベクトル用です。複素数用の $=$ は算数から使っている $=$ を拡張したものです。実数用もこれに含まれます。集合用とベクトル用はそれが登場する時に新たに定義されます。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

つまり新しい型の相等関係に $=$ を使うのであれば,何をもって等しいとするのかきちんと定義をする必要があり,ただ「同じ」と言えるくらいの感覚で勝手に使えるものではないことに注意してください。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

教科書に定義が書かれていないので使いにくい $=$ があります。座標と関数です。座標が等しいことを $(a,b)=(c,d)$ と表したり,関数が恒等的に等しいことを $f=g$ と表したりできれば便利ですが。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

座標の方はベクトルの相等の $=$ が導入されれば,点の位置ベクトルが等しいという意味で書けるのですが,ベクトルは数学Cなので学習するのが遅いのが難点です。

浜田昌宏 / 浜田塾@hamadajuku

事象の $=$ も高校数学では定義されていません。事象は集合と同じように考えてよいのですが,あまり使い道がないので(少なくとも高校数学では),わざわざ大袈裟なことは書きたくなかったのだろうと思います。ちなみに部分事象も定義されていません。

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