数学つれづれ草

図形で約数・倍数・素数

情報処理学会のプログラミング・シンポジウムにGPCCという分科会があって,そこではパズルの問題をコンピューターで解くコンテストが行われています。一般の人も参加できるように,ホームページにはいろいろと面白い問題が紹介されています。そこで見つけた最小公倍図形という問題が,教材としても使えそうで特に興味を引かれましたので,取り上げてみたいと思います。

図形Aがいくつかの図形Bに分解可能であるとき「図形Aは図形Bで割り切れる」と定義します。例えば,

(例1) で割り切れる図形の例:

(例2) で割り切れる図形の例:

ここではどちらにも登場しています。つまりでもでも割り切れる公倍数のようなものと言えるので,このような図形を「公倍図形」と呼ぶことにします。

これは面白い展開ができそうだという,実にわくわくする設定です。ただし,原題の掲載ページにも書かれていますが,これは図形の集合に演算を定義したわけではありません。「図形A÷図形B」と書いてみても,この式は図形を返さず,割れるかどうかの判定しかできません。割り切れない場合も「余り」にあたる図形はただ1つとは限らないので,余りを求める演算も定義できません。強いて言えば「図形A÷図形B」は0か1の真偽値を返すだけの演算です。思ったより窮屈そうでちょっと残念ですが,それなりに何か展開を考えてみます。

問題を作ってみる

(問1) を割り切る図形をすべて答えなさい。

つまり約数にあたる図形,"約図形"を求める問題です。大きさ10の約図形は,必ず大きさが10の約数,つまり1, 2, 5, 10でなければならないことから考えるとよいでしょう。

大きさ1と大きさ10が1通りしかないのは当たり前。大きさ2の場合もこの形しか存在しないので1通り。大きさ5の場合は複数ありますが,これくらいのサイズならば3通りで全部であることを確かめるのは易しい。というわけで,確かにこれで全部であることが分かります。

(問2) でもでも割り切れる最小の図形を答えなさい。

(問2)は2つの図形の大きさが3と5なので,公倍図形の大きさは15の倍数になるはずです。まずは大きさ15と考えて+型のピースを3つ適当に組み合わせてみると・・・答えはあっさりと見つかってしまいます。

なんだ,この程度かと思ったら,GPCCの原題もご覧ください。大きさが4と5最小公倍図形なのに,20どころか恐ろしく巨大な図形になってしまいます。ほとんど同じ問題なのに一気に複雑になってしまうのが不思議です。また,適当な2つの図形を用意して公倍図形を考えた場合,答えが存在しないことだってあります。(証明はしていないので"たぶん"ですが)

(問3) でもでも割り切れる最小の図形を答えなさい。

(問3)は2つの図形の大きさがどちらも4です。4と4の公倍数を考えてみても意味はありませんので,これは答えの大きさが想定できません。適当に組み合わせながら答えを探り当てるしかないと思います。でも実際には大して難しくなく,次のような大きさ16の図形がすぐ見つかります。

ちなみに,これらの問題は小学6年生に実際に出したことがありますが,そのときの正解率は,(問1)は1割,(問2)は8~9割,(問3)は6割でした。

(問4) (1)で求めたものは図形の約数,(2)(3)で求めたものは図形の公倍数と考えられます。そうすると,図形の素数とはどのようなものになりますか。

素数が「1とその数自身以外では割り切れない数」ですから,この"素図形"は「とその図形自身以外では割り切れない図形」と定義するのが妥当でしょう。そうすると,大きさが2, 3, 5, 7,…という素数になっている図形は,どんな形をしていても必ず素図形です。

ただし,大きさが合成数であっても素図形になることがあります。例えば次のような図形は,大きさは4で合成数ですが,どうやっても大きさ2の同じに図形に割ることができないので素図形です。

では,どんな形の図形ならば大きさが合成数なのに素図形になるのでしょうか?・・・これは難しい問題です。お手上げです。

図形と数の関係

この問題は扱う図形の形を"棒状のもの"だけに限定すると,整数における割り算と同じと考えることができます。そうすれば,約図形・倍図形・素図形は,それぞれ約数・倍数・素数と全く同じものになります。もちろんそんな限定を付けたら図形として扱う意味はなくなってしまいますが,そのように見ることで,数の場合とのつながりが見えてきます。

算数の文章題でよく線分図を書くように,実数は"棒状のもの"で表される1次元の世界です。大きさが一致すればすなわち合同です。それに対して,ここで扱っている図形は2次元。大きさが一致しても合同とは限りません。合同条件が厳しくなった分,数の割り算よりも割り切れにくくなっています。だから「割れること」を定義にした倍図形はより見つかりにくくなり,「割れないこと」を定義にした素図形はより見つかりやすくなったというわけです。

(2011/12/21)