数学つれづれ草

書籍紹介「イプシロン・デルタ」「解析入門」

大学で数学を専門に学んでいこうとすると,まず「解析学」を習うことになると思います。一般教養の「微分積分」や「線形代数」は高校数学の延長のような感じなので勉強しやすいのですが,この「解析学」はこれまでの数学とは考え方を大きく転換させないといけないので要注意です。

何を目的に解析学を学習するのか少しでも知っておけば良かったのですが,私の場合は何も知らずに高校数学の頭で臨んでしまったものですから,半年くらいカルチャーショックに悩んでしまいました。直感的には当たり前のようなことを,わざわざいくつもの前提を準備したり,それをもとにややこしい論理で説明しようとする。今となってはその意義は分かるのですが,当時はまさに「何のこっちゃ」という感じでした。これじゃ分かっていたものさえ分からなくなる!

解析学は,高校の微分・積分のように高度なグラフが自在に描けたり,その面積が求められたりするような華やかな結果が得られる数学とは全然違うのです(少なくともその入り口の部分では)。その覚悟もなく,高校数学の単なる延長のようなものを期待してあたるとひどい目に会います。

ではその対策なのですが,これまでの直感数学と解析学の入り口を滑らかにつないでくれるよい本があるのです。私がカルチャーショックに悩んでいたときに救ってくれた大変ありがたい本を2冊紹介します。数学ワンポイント双書の「イプシロン・デルタ」と,岩波全書の「解析入門」です。どちらも著者は田島一郎先生です。

イプシロン・デルタというのは,例えば,$x\rightarrow a$ のとき関数 $f(x)$ が $b$ に収束することを,

$\forall\varepsilon>0,~\exists\delta>0\quad\text{s.t.}$$\quad0<\left|\,x-a\,\right|<\delta~\Rightarrow~\left|\,f(x)-b\,\right|<\varepsilon$

と表現するというもので,案外簡単なことを言っているのですが,見た目にはとても分かりにくい形をしています。目的や必要性も分からずこれを無理矢理使わされたって面白くありません。そこでイプシロン・デルタに関するよい解説書はないかと探してみたところ,見つけたのが田島先生の「イプシロン・デルタ」です。イプシロン・デルタの解説から解析学入門まで,直感的に分かりやすいように上手く説明されています。通学電車の中でくり返し何度も読んだので表紙もボロボロになっています。
ただし,この本はボリュームがなくて寂しいので,同じ著者つながりでもう1冊見つけたのが,「解析入門」です。「イプシロン・デルタ」よりも解析学の基礎の部分のより広い範囲をカバーしています。田島先生流の解説になじんだ私にとってこれは最高の書になりました。

最近は,解析学入門をサポートしてくれるもっといろいろな本が出ているようです。これは読みやすいなと思ったのが,瀬山士郎著『「無限と連続」の数学』(東京図書)。これも解析学の入り口に立つ人にはよい助けになりそうです。

(2006/05/09)