数学コラム

クローゼットの扉が通過する部分の面積は?

右の写真は,私の部屋にあるクローゼットです。この扉は取っ手の部分を引くと,2枚の板が山折りになるように手前に浮き上がって開きます。(確かバスの扉にもこんなのがあったっけ)

この扉の通過する部分には物を置くわけにはいかないので,部屋のレイアウトを考えるとき,図面に扉の通過する部分も描きこんで考えていました。

すると,「この扉の描く曲線は何だ?」ということと,「扉の通過する部分の面積はどのくらい?」という疑問がわいてきたので,考えてみることにしました。

アニメーションで表示するとこんな感じです。

通過部分の軌跡を描いてみるとこんな感じ。

さて,この動く折れ線のうち,赤いほう(下の図のPQ)を $y$ 軸と交わるまで延長して,交点をRとします。

すると,PQ=QRとなるので,PRの長さは常に一定(この図で言えば常に10)であることが分かります。両軸上に端点を持つ一定の長さの線分がつくる包絡線といえば…アステロイドですね。

では,アステロイドも描いてみよう。

お! やっぱりぴったりだ。

ただし,アステロイドを描くのは45度起き上がるまで。その後は単なるおうぎ形になっています。

さて,ここまで正体が分かれば面積は積分計算で求められます。ここからは扉の幅は $a$ とします。つまり板1枚あたりの幅は $a/2$ です。

まず第1象限でアステロイドに囲まれた面積を求めてみます。あとはこの面積を半分にして,それに中心角45度のおうぎ形の面積を足せばいいのです。

アステロイドは $(x,~y)=(a\cos^3\theta,~a\sin^3\theta)$ で表されるので,ここは置換積分で…

$ \let\orgcdot=\cdot \def\cdot{\!\orgcdot\!} \eqalign{ S_1&=\[1/2]\int_0^ay\,dx\\[1px] &=\[1/2]\int_{\pi/2}^0\left(a\sin^3\theta\right)\left(-3a\cos^2\theta\sin\theta\right)d\theta\\ &=\[3/2]a^2\int_0^{\pi/2}\left(\cos^2\theta\sin^4\theta\right)d\theta\\ &=\[3/2]a^2\int_0^{\pi/2}\left(\sin^4\theta-\sin^6\theta\right)d\theta\\[3px] &=\[3/2]a^2\left(\[3/4]\cdot\[1/2]\cdot\[\pi/2]-\[5/6]\cdot\[3/4]\cdot\[1/2]\cdot\[\pi/2]\right)\\ &=\[3/64]\pi a^2 }$

これが45度起き上がるまでの面積です。あとはおうぎ形。

$\eqalign{ S_2&=\pi\left(\[a/2]\right)^2\times\[1/8]\\ &=\[1/32\Rule{0px}{0px}{3px}]\pi a^2 }$

準備OK! これらを足せば答えが出るぞ。

$\eqalign{ S&=S_1+S_2\\ &=\[3/64]\pi a^2+\[1/32]\pi a^2\\ &=\[5/64\Rule{0px}{0px}{3px}]\pi a^2 }$

出た。うれしい。

微分・積分の知識が,こんな身近なところで使えるなんてうれしいですね。

(2004/01/12)