数学コラム
おもちゃのカンヅメを当てるには
森永のチョコボールは,箱の口の部分にエンゼルが印刷されていることがあって,それを集めて送ると「おもちゃのカンヅメ」がもらえます。エンゼルには金と銀の2種類があり,おもちゃのカンヅメをもらうための条件は「金のエンゼル1枚または銀のエンゼル5枚を集めること」です。ただしエンゼルが出る確率は低く,特に金のエンゼルは滅多に出ないそうです。すると,おもちゃのカンヅメをもらうまでにチョコボールを相当買うことになりますから,一体何個買えばよいのかということが気になります。
問題
チョコボールを1箱買うとき,金のエンゼルが出る確率を $p$,銀のエンゼルが出る確率を $q$ とします。金が1枚出るか,または銀が5枚出るまでに,チョコボールを何箱買うことになるか,その期待値を求めることを目指します。
準備
まず問題を簡単にして考えてみます。
もし銀のエンゼルが存在せず,金のエンゼル以外は全部ハズレとするとどうでしょうか。
つまり,確率 $p$ で当たり,$1-p$ でハズレと考えて,当たるまでの試行の回数の期待値を求めてみます。
確率分布表を書いてみると,
試行回数 | 確率 |
$1$ | $p$ |
$2$ | $(1-p)p$ |
$3$ | $(1-p)^2p$ |
$4$ | $(1-p)^3p$ |
$\cdots$ | $\cdots$ |
合計 | $1$ |
これで期待値 $E$ を求めてみます。
$\eqalign{
E&=1p+2(1-p)p+3(1-p)^2p+4(1-p)^3p+\cdots\\[4pt]
(1-p)E&=\phantom{1p}+1(1-p)p+2(1-p)^2p+3(1-p)^3p+\cdots
}$
この2式の辺々をひくと,
$\eqalign{
pE&=p+(1-p)p+(1-p)^2p+(1-p)^3p+\cdots=1\\[4pt]
E&=1/p
}$
求められました。平均的には $1/p$ 箱買うことになるということです。
再帰的に考えて
上の話は次のように考えることもできます。
試行回数 | 確率 |
$1$ | $p$ |
$1+E$ | $1-p$ |
合計 | $1$ |
1回目の試行で $p$ の確率で当たれば,その1回で終わり。$1-p$ の確率ではずれたら,その後さらに $E$ 回の試行を要する,という考えです。これを式に表すと,
$
E=1p+(1+E)(1-p)
$
これを解くと,簡単に $E=1/p$ が得られます。
ここから本題
本題に戻ります。まず,上がるまでに出るエンゼルの回数とその出方を次のように分類します。
エンゼル回数 | 出方 |
1回 | 金 |
2回 | 銀→金 |
3回 | 銀→銀→金 |
4回 | 銀→銀→銀→金 |
5回 | 銀→銀→銀→銀→金か銀 |
1回の試行で金か銀のエンゼルが出る確率は $p+q$ ですから,先の準備によると,エンゼルが出るまでに必要な試行回数の期待値は $1/(p+q)$ 回です。これはエンゼルを2回出すなら $2/(p+q)$ 回,3回出すなら $3/(p+q)$ 回と,エンゼルを出す回数に比例して増えていきます。
そして実際にエンゼルが出たとき,それが金である確率は $p/(p+q)$,銀である確率は $q/(p+q)$ です。すると,例えばエンゼルを「銀→銀→金」と出して上がる場合の確率は,
$
\f{q}{p+q}\cdot\f{q}{p+q}\cdot\f{p}{p+q}=\f{pq^2}{(p+q)^3}
$
と求められます。このようにして,上の表から確率分布表を作ります。
試行回数 | 確率 |
---|
$\f1{p+q}$ | $\f{p}{p+q}$ |
$\f2{p+q}$ | $\f{pq^1}{(p+q)^2}$ |
$\f3{p+q}$ | $\f{pq^2}{(p+q)^3}$ |
$\f4{p+q}$ | $\f{pq^3}{(p+q)^4}$ |
$\f5{p+q}$ | $\f{q^4}{(p+q)^4}$ |
合計 | $1$ |
これで期待値を求められます。
$\eqalign{
E&=\f{1p}{(p+q)^2}+\f{2pq}{(p+q)^3}+\f{3pq^2}{(p+q)^4}+\f{4pq^3}{(p+q)^5}+\f{5q^4}{(p+q)^5}\\
&=\f1{(p+q)^5}\cdot\left(p^4+5p^3q+10p^2q^2+10pq^3+5q^4\right)\\
&=\f1{(p+q)^5}\cdot\f{(p+q)^5-q^5}{p}\\[4pt]
&=\f1{p}\left\{1-\left(\f{q}{p+q}\right)^5\right\}
}$
案外きれいな答えになりました。これはただの計算の結果というよりも,何か直接的な意味がありそうです。
これも再帰的に考えてみる
銀のエンゼルを $n$ 枚持っている状態から,おもちゃのカンヅメをもらうまでに必要な試行回数の期待値を $E_n$ で表すことにします。また,金のエンゼルも銀のエンゼルも出ない確率を $r$ とします。つまり,$p+q+r=1$ です。これで $E_n$ を求めるための確率分布表を作ります。
試行回数 | 確率 |
$1$ | $p$ |
$1+E_{n+1}$ | $q$ |
$1+E_n$ | $r$ |
合計 | $1$ |
ちょっと解説しておきます。銀のエンゼルを $n$ 枚持っている状態から,試行を1回だけ行うことを考えてください。
- $p$ の確率で金のエンゼルが出れば,その1回で終わり。
- $q$ の確率で銀のエンゼルが出れば,その後さらに $E_{n+1}$ 回の試行を要する。
- $r$ の確率でエンゼルが出なければ,その後さらに $E_n$ 回の試行を要する。
上の表はこういう意味です。これで漸化式が作れます。
$
E_n=1p+(1+E_{n+1})q+(1+E_n)r
$
求める期待値は $E_0$ です。$E_5=0$ から出発して,$E_4,~E_3,~\cdots,~E_0$ と順番に求めてもいいですが,せっかくなのでちゃんと一般項を求めてみたいと思います。
$\eqalign{
E_n&=1+qE_{n+1}+rE_n\\[4pt]
(1-r)E_n&=1+qE_{n+1}\\[2pt]
E_n&=\f1{p+q}+\f{q}{p+q}E_{n+1}\\[3pt]
E_n-\f1p&=\f{q}{p+q}\left(E_{n+1}-\f1p\right)\\[3pt]
E_0-\f1p&=\left(\f{q}{p+q}\right)^n\left(E_n-\f1p\right)
}$
求められました。ここで $n=5$ とすると,
$\eqalign{
E_0-\f1p&=\left(\f{q}{p+q}\right)^5\left(0-\f1p\right)\\[4pt]
E_0&=\f1{p}\left\{1-\left(\f{q}{p+q}\right)^5\right\}
}$
上で求めた答えと同じになりました。
結局何箱買うのか
この結果を使って,チョコボールを何箱買うことになるのか具体的に求めてみましょう。そのためには,金のエンゼルが出る確率 $p$ の値と,銀のエンゼルが出る確率 $q$ の値が必要です。Webで調べてみましたが,これは森永の企業秘密のようで,はっきりとした値は分かりません。ただし,実際に大量購入して調べてみたという記録はあって,それによると,$p=1/1000$,$q=1/28$ だそうです。正確ではないと思いますが,この値を借りることにします。
$\eqalign{
E&=1000\left\{1-\left(\f{1/28}{1/1000+1/28}\right)^5\right\}\\[4pt]
&=128.967\cdots
}$
というわけで,結論としては「おもちゃのカンヅメをもらうためには,チョコボールを平均的に約130個買うことになる」と分かりました。
(2015/06/07)